「手取り15万。人生詰んだ」を年収上がらない想定で検証してみた
監修・ライター
先日、「高卒就職3年目。手取り15万。昇給なし。賞与2カ月。人生詰んだ。」というツイートを見ました。高卒で就職して3年目ということは、年齢は21歳前後でしょう。彼のこの先の人生はまだまだずっと長いはずですが、これじゃ生きていけないと思うほど本当に詰んでしまったのでしょうか?
そこで本日は、彼の人生がまったく詰んでいない事を証明してみます。
年収が一生変わらない想定でシミュレーション
このツイートをした人は、どうやら手取り金額や賞与の少なさ、昇給がまったくない事に絶望しているようです。確かに、今後の人生を考えると、結婚や出産・育児にはかなりのお金がかかります。
そこで、結婚して子供が持てる状態を「詰んでいない」と仮定し、そのためには何をすれば良いのかをシミュレーションしてみます。
年収と労働年数の設定
手取り15万円で賞与2カ月ということは、多分月収は20万円を切るくらいで、賞与も夏・冬ともにそれと同じくらいのはずです。したがって、彼の年収は250万円くらいでしょう。就職して3年目の年収としては、確かに多いとは言えません。これくらいの年収であれば、実は転職するのが一番手っ取り早いのですが、敢えてこの年収のままでシミュレートしてみます。
まず、条件を以下のように設定します。
- 年収と手取り金額は、一生上がらないものとする(ただし、物価の上昇分については比例して上がるものとする)
- 貯金0円の状態で25歳に結婚し、65歳までの40年間働く
- 彼とまったく同じ年収(=手取り)の女性と結婚する
- 結婚相手の女性の貯金も0円
- 女性の年収も彼と同様まったく上がらないものとする
- 女性も結婚後に働き続ける
お互いの貯金が0円の状態で夫婦生活をスタートし、その後一生給料が上がらないわけですから条件はかなりシビアです。では次章で、シミュレーションをしてみます。
パターン① 子供がいない場合
夫婦合わせて貯金が0円では、新生活を送るための費用は捻出できません。したがって、親との同居を選択します。家事の負担や妊娠・出産・育児などを考えると、女性の実家に同居させてもらうのが一番現実的です。そして、実家に迷惑をかけないギリギリのラインまで甘えさせてもらいます。具体的には、以下のように取り決めを行います。
- 家賃は払いません(同居してもしなくても、親の支出は変わらないため)
- 水道光熱費は毎月1万5000円負担します(2人分ですからこれくらいで済むはずです)
- 固定電話代は払いません(使いません)
- Wi-Fiの電波はタダで使わせてもらいます(親の支出は変わらないため)
- 新聞はタダで読ませてもらいます(親の支出は変わらないため)
- 食費及びその他の雑費として毎月3万円負担します(2人分ならこれくらいで何とかなるはずです)
- 車は持ちませんが、親の自動車を必要に応じて借ります。維持費は支払いませんが、使った分のガソリンだけは補給して返します
- 家事はできるだけ積極的に行います(実家にお世話になっているお返しとして)
- 男性だけ月額5000円程度の都道府県民共済に加入します
- 夫婦二人合わせて月額5万円を小遣いとし、この中でスマホの通信費から美容代まですべてをまかないます。
どうでしょうか?結構厳しいかもしれませんが、決して不可能ではありません。実際これくらいで生活している人もたくさんいます。
この場合、二人の月額の手取りの合計は15万円×2人=30万円で、支出の合計は10万円ですから、毎月の貯金は20万円です。これを、前回の私の記事(https://mymo-ibank.com/money/5199)と同様の条件(年利3%、配当利回り1.5%)で40年間(480カ月)運用します。
この場合の初年度の運用実績を見てみましょう。
月初の残高に対して年利3%、配当利回り1.5%で毎月20万円の投資を行うとすると、2カ月目の運用益と配当利回りは以下のようになります。
• 運用益・・・月初残高20万円×年利3%÷12カ月×1カ月=500円
• 配当金・・・月初残高20万円×利回り1.5%÷12カ月×1カ月=250円
• 月末残高・・・月初残高20万円+月次投資金額20万円+月次運用益500円+月次配当金250円=40万750円
これを、3カ月目以降も繰り返していきます。
25歳から始めて、10年経った120カ月後の運用成績は、以下のようになります。
貯金なしで結婚した2人が、35歳には老後に必要な資金3000万円をすでに貯めてしまいました。
そして、そのまま65歳まで続けると、運用成績は以下のようになります。
給料が手取り15万円から一生増えなかったとしても、2億7000万円弱まで資産を増やすことができます。なお、親の自宅は老朽化しますから、どこかで建て直さなければなりません。これまでお世話になったわけですから、全額負担してリフォームして下さい。土地代はいりませんから、2000万~3000万円もあれば十分なはずです。
また、年間2回の賞与は、運用に回しません。半年に一度、手取りで15万円ずつの賞与は、二人とも好きなものに使ってください。毎日節制しているわけですから、ここは息抜きも兼ねて気分転換に使うべきです。
それから生命保険については、結婚当初は男性のみ月額5000円の都道府県民共済に加入しましたが、10年経ったら解約してその分生活費に回して構いません。上述のシミュレーションで分かるように、10年後にはもう十分なお金があるので、生命保険や医療保険にわざわざ加入する必要がありません。
では次は、子供がいる場合です。
パターン② 子供がいる場合
現在の日本の出生率は約1.3ですから、それに合わせて夫婦の間に子供が1人できると仮定します。結婚3年後に第1子を出産し、出産以降は女性の年収を扶養の範囲内の103万円(月額約8万5000円)に固定します。
子供の養育費の総額は教育費を除いて1人あたり約2000万円と言われていますから、出産後20年間は、女性が稼いだ収入はすべて子供の養育費に回すとします(年収103万円×20年間≒2000万円)。
また、子供が増えたことにより食費などが増えるため、実家への支払いを月額5万円から7万円に増額します。
こうなると、男性の手取り15万円+女性の手取り8万5000円-子供の養育費8万5000円-実家への支払い等7万円-2人の小遣い5万円=3万円が月額の投資金額となります。
なお、児童手当が月額1万5000円前後支給されるはずですが、これは想定外の養育費に消えていくものとします。また、夏・冬の賞与も投資には回さないものとします。
この条件で試算を行った場合の結婚10年後の運用成績は、以下のようになります。
結婚3年後(37カ月目)からは投資金額が月額3万円に減ってしまうため、子供がいない場合と比べると資産は半分以下ですが、それでも結婚10年(120カ月)で1000万円以上になっています。
2000万円の養育費を20年間かけて支払ったら、結婚24年目(277カ月目)からは女性の収入を再び運用に回し、月額の投資金額を3万円から11万5000円(3万円+女性の月収8万5000円=11万5000円)に増やします。
この条件で試算を行った場合、男性が退職する65歳の時には以下のようになります。
こちらも、子供がいない場合のシミュレーションと同様に、親の自宅の老朽化にともない2000万~3000万円のリフォーム代がどこかで必要になります。また、子供の教育費はカウントしていませんから、1000万~2000万円前後の支出があると考えておいた方が良いでしょう。
それを差し引いても、65歳で1億円を超える資産が持てるわけですから、老後にお金で困ることはないでしょう。
投資で資産が減るリスクはどうコントロールすべき?
歴史的・統計的にみて、資産運用は株式を中心にするのがもっとも高利回りであることは、既にさまざまなデータが証明しています。とはいえ、ブラックマンデーやリーマンショックのような、世界的な株価の大暴落が起これば、短期的ではありますが最大で4割近くの資産が消失することも考えられます。これが半年以内に戻る場合もあれば、数年を要することもあります。
こういったリスクをコントロールする唯一の手段は、売却せずに積み立て続けることしかありません。株式投資は「長い目」で見れば最も効率の良い投資方法ではありますが、その「長い目」が何年くらいを指すのかは誰にもわかりません。
今回紹介した2つのシミュレーションは、計算をシンプルにするために毎月の残額をすべて投資に回しています。しかし、リスクを考えた場合、実際にはある程度の生活資金は手もとに残しつつ余剰資金の範囲内で投資を行うべきでしょう。
資産を構築していくために必要な要素は3つ
資産を構築するためには、「収入」と「支出」と「運用」の3つの要素が大切です。収入を増やし、支出を削り、ある程度リスクを取って運用すれば、10年くらいでFIREも十分に可能です。
しかし、FIREを目指さないのであれば、収入が増えなくても十分です。今回のシミュレーションからも明らかなように、収入がどれだけ少なくても支出の管理と運用さえしっかり行っていれば、決して人生が「詰んだ」状態にはなりません。つまり、冒頭で紹介したツイートの彼の人生は、決して詰んでいません。
日本人の非婚化・晩婚化の原因は、男性の年収が上がらないためと言われています。しかし、男性の年収が上がらなくても、支出と運用さえ管理できればあとは工夫でどうにでもなります。ひょっとしたら、正しいファイナンス知識の欠如こそが、非婚化・晩婚化の本当の理由なのかもしれません。
※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。