中央アフリカがビットコインを法定通貨へ!ドミノ化は起こるか?
監修・ライター
先日、中央アフリカが、2021年のエルサルバドルに次いでビットコインを法定通貨とすることを発表しました。ドルやユーロに次ぐ「円」という強力な通貨を持っている私たちには想像もつかない状況ですが、これにはいったいどのような背景があるのでしょうか?また、国家の後ろ盾を持たない仮想通貨が法定通貨となることに問題はないのでしょうか?
そこで本日は、中央アフリカをはじめとするアフリカ諸国の現状と、先んじてビットコインを導入したエルサルバドルで起きている問題などについて解説していきます。
中央アフリカがビットコインを法定通貨へ
ロイター通信によると、4月27日中央アフリカ共和国の大統領府は、議会においてビットコインを法定通貨化する法案が全会一致で可決されたと発表しました。ビットコインを法定通貨としたのは2021年のエルサルバドルに続いて世界二カ国目であり、今後の動向が世界中から注目されています。
この背景について解説する前に、そもそも「法定通貨とは何なのか?」について整理してみたいと思います。
法定通貨とは
法定通貨とは、国家によって、その国内の金銭債務の支払手段として認められている公的な通貨のことをいいます。国内における金銭債務の支払い手段のうち、最も代表的なものが納税です。納税は、世界中どの国でも、その国が認めた法定通貨でしか支払うことができません。
たとえば、友人同士のお金の貸し借りであればAmazonギフト券で返済が出来るかもしれませんが、所得税や法人税などをアマゾンポイントで納めることはできません。これは、円が日本国の法定通貨であるためです。
ユーロ圏などを除き、先進国などの大多数の国々の場合、この法定通貨は、自国の中央銀行で発行されています。しかし、南米やアフリカ諸国の場合、多くは米ドルなどが法定通貨として用いられています。
中央アフリカの法定通貨
中央アフリカやその周辺諸国は、第二次世界大戦以前、フランス領赤道アフリカとしてフランス領の一部に編入されていました。第二次大戦後の1958年にはフランス領から離脱し独立しましたが、その際に法定通貨として制定されたCFAフランはフランスフランと固定相場により紐づけされました。これを「CFAフラン体制」といいます。この体制はフランスフランからユーロへ移行された後も続きます。
しかし、このCFAフラン体制には大きな問題がありました。CFAフランの通貨としての信用をユーロが保証する代わりに、中央銀行が保有する外貨準備高の50%を担保としてフランス国庫に預けなければならなかったのです。
これでは、いつまでたってもCFAフラン独自の担保力を高めることができません。この体制はフランスによる新たな植民地主義であり、アフリカ諸国の経済発展を阻害していると、中央アフリカをはじめとする旧フランス領植民地諸国では激しい反発が続いていました。
このような状況がベースとして存在している中で、紛争が続き経済が安定しなかったことが引き金となり、CFAフラン体制の脱却とビットコインへの移行が議会により全会一致で可決されたわけです。
アフリカ諸国と仮想通貨の親和性の高さ
アフリカ大陸の国々の多くはまだまだ貧しく、インフラの整備も整っていません。銀行も主要都市にしかないため、地方に住む人々の大多数は銀行口座すら持っていません。全財産を紙幣で持っているため、常に強盗などの被害にあいやすく、治安も悪い状況です。その上ハイパーインフレが起こることもあるため、通貨の価値も極めて不安定です。
加えて、送金手数料が高いことも悩みの種でした。アフリカでは、多くの人々が外国へ出稼ぎに行きます。しかし、家族に銀行口座を持っている者がいなければ、国際送金もできません。そのため、地下銀行などを使った不正送金に頼らざるを得ず、その手数料は決して安いものではありませんでした。
アフリカで加速するフィンテック
このような状況下で、アフリカでは電子マネーが急速に普及していきます。ケニアでは、スマホアプリを使った決済システム「M-PESA(エム・ペサ)」での決済がGDPの4割を超えるほど普及し、ナイジェリアなどの周辺国にも広まりつつあります。
また、同国のスタートアップである「BitPesa」は、現在アフリカ諸国でビットコインを使った国際送金サービスを展開しています。
こういった背景もあり、アフリカ諸国ではビットコインが若年層のビジネスマンを中心に多くの人々の間で広がっています。一般人の仮想通貨利用度の国別比較を表す仮想通貨受容指標(Global Crypto Adoption Index)の2021年版によると、トップ20のうち6カ国をアフリカ諸国が占めています。
参照 「2021年の世界の仮想通貨受容指標」より筆者作成
ここまでの話をまとめると、以下のようになります。
中央アフリカがビットコインを法定通貨化した背景には、
1. CFAフラン体制からの脱却
2. 政情不安にもとづく経済の不安定さ
3. フィンテックの発達
4. ビットコインの日常化
などがあり、これらが今回の議会の決定を後押しした大きな要因となっていると考えられます。
エルサルバドルの現状
では次に、中央アフリカに先んじて世界で最初にビットコインを法定通貨とした、南米のエルサルバドルの現状を見てみます。
ビットコインの推移とエルサルバドルへの影響
南米のエルサルバドルでは、2021年9月にビットコインを世界で初めて法定通貨とすることを決定しました。その後、ビットコインはどのように推移しているのでしょうか?
チャート引用元 Google Finance
法定通貨化された昨年の9月7日には5,172,439円を付けていたビットコインはその後爆上げし、上図のピーク時である11月8日には7,654,472円にまで上昇しました。しかし、その後は反転し、2022年5月13日の時点では3,898,638円にまで急降下しています。
では、エルサルバドル政府はこれまでにいったいどれほどのビットコインを購入しているのでしょうか?エルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領は自身のツイッターで5月10日に500ビットコインを追加購入したことを明かしています。これでエルサルバドルの累計保有額が2,301ビットコインとなったことが分かりました。
過去の平均取得単価が4万4千ドル前後だとすると、取得価格の総額は以下のようになります。
- 2,301ビットコイン×4万4千ドル≒101百万ドル(1ドル130円で約131億円)
ちなみに、外務省のHPによるとエルサルバドルのGDPは27,022百万ドル(1ドル130円で約3兆5千億)ですから、今のところエルサルバドルが保有しているビットコインの対GDP比は101百万千ドル÷27,022百万ドル≒0.3%となります。
したがって、保有残高が少額なため、ビットコインが暴落してもただちにエルサルバドルの財政に大きな影響を及ぼすということはなさそうです。
金融不安の警鐘を鳴らすIMF
エルサルバドル政府は、今後10億ドル(1ドル130円で約1300億円)ほどのビットコイン連動債を発行する計画を発表しています。これに対し、「この債権が市場に出回ると、ビットコインが暴落した場合に金融不安が生じる懸念がある」とIMFは警鐘を鳴らしています。
上述のように、エルサルバドルでのビットコインの損失は、今のところ国家の運営にダメージを与えるような事には至ってはいません。しかし、今後ビットコイン連動債の発行残高が増えていけば、ビットコインの暴落によって世界中で大きな影響が出る可能性は高くなります。
ビットコインの法定通貨化の流れは今後どうなるのか?
米国や日本の法定通貨がビットコインになることはまず考えられません。なぜなら、米ドルや円を発行する米国や日本国の信用度の方がビットコインよりも遥かに高いからです。
しかし、世界には、そうでない国もたくさんあります。「自国が発行している通貨と比べたらリスクは高くてもビットコインの方がまだまし」と思われている国々があるのも事実です。そういった国々が第三、第四のビットコインの法定通貨化へ舵を切る可能性は、ゼロとは言い切れないでしょう。
問題は、ビットコイン連動債のような金融商品が発行された場合に、世界中の金融市場に与える影響です。アフリカ大陸の数カ国がビットコインを法定通貨化して保有したとしても、それ自体が私たちに直接影響を与えることはあまり考えられません。
しかし、その国々がビットコイン連動債を発行し、それを組み込んだ金融商品が世界中で売られることになれば、ビットコインの暴落によって金融不安が生じることは十分にあり得ます。
私たちは、今後も、ビットコインの法定通貨化を注意深く観察していく必要があるでしょう。