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各国開発進む中央銀行デジタル通貨、日本は発行?それとも共存?

経済とお金のはなし 中新 大地

各国開発進む中央銀行デジタル通貨、日本は発行?それとも共存?

【画像出典元】「RHJPhtotoandilustration/Shutterstock.com」

こんにちは、ライター/ランサーズ新しい働き方LABコミュニティマネージャーの中新大地です。

私たちが普段使っているお金、日本円。
この円は、「法定通貨」と呼ばれ、国の“お墨付き”によって、その価値を確固たるものとしています。円があれば買い物もできますし、旅行にだって行けます。私たちの暮らしになくてはならないものですよね。

そして今、新たにこのお墨付きを得ようとしているのが仮想通貨です。
かつて、「価値が確かなのかどうか怪しい」「詐欺まがいの代物」とも呼ばれた、この新テクノロジーは、現在世界のさまざまなサービスで用いられるようになりました。

今回はそんな仮想通貨が法定通貨として機能する未来と、各国の取り組みについてお話していこうと思います。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)と電子マネーの違い

仮想通貨、特に中央銀行(国)が作ろうとしているものを、「中央銀行デジタル通貨」といいます。略称にすると「CBDC(Central Bank Digital Currency)」。「ステーブルコイン」と呼ばれることもあります。

国の中央銀行が発行するデジタル通貨については、2015年にイングランド銀行にて議論されはじめ、2016年にはスウェーデンが「E-クローナ」を検討。日本では2020年1月に各国の中央銀行らと『主要中央銀行による中央銀行デジタル通貨(CBDC)の活用可能性を評価するためのグループの設立』を発表して情報共有を開始しました。

日本銀行は中央銀行デジタル通貨を

(1)デジタル化されていること
(2)円などの法定通貨建てであること
(3)中央銀行の債務として発行されること

と定義づけています。

よくSuicaやEdyなどの電子マネーと混同されることも多いのですが、電子マネーは法定通貨(円)を使って前払いすることでデジタル化したもの。対して、中央銀行デジタル通貨は、法定通貨そのものをデジタル化したものを指します。

中央銀行デジタル通貨発行には、技術面だけでなく、プライバシーや不正利用、マネーロンダリングといった、セキュリティ面の課題も多く、発行に慎重になっている国は少なくありません。
それでも、発行に向けて議論が進んでいるのは、金融のデジタル化への適応と、現行の現金の流通コスト削減のためです。

ビットコインを法定通貨化、エルサルバドルの挑戦

各国が自国の法定通貨をデジタル化するか議論する中、2021年9月7日(現地時間)にビットコインを法定通貨にしたのが中南米の国、エルサルバドルです。エルサルバドルは海外へ出稼ぎにいく労働者が多いにもかかわらず、銀行口座を持っていない人が大半です。これでは稼いだお金を送金ができず、国内に残った家族が飢えてしまいます。

そこで、目を付けたのが、銀行口座がなくても送金可能なビットコインでした。しかも、ビットコインであれば出稼ぎ労働者の送金手数料を年間で約440億円も節約できるというのです。

エルサルバドルは、これを法案として承認後、国内にビットコインATMを200台以上設置、国民に一人当たり約3300円相当のビットコイン配布などを発表。9月はじめには、同国のブケレ大統領はビットコインの下落に合わせて、2回ビットコインを購入した旨をツイート。総数にすると700BTCで、記事執筆時点では約51億円(1BTCは約730万円)相当となっています。

こうした政策によって、エルサルバドルでは国内のビットコインの流通を活性化させようとしています。ただ、国民の中にはそもそもビットコインの扱い方を知らない人も多く、まだこのビットコイン法定通貨化プロジェクトは道半ばと言えます。

各国をリードする中国のデジタル人民元政策

エルサルバドルがビットコインの法定通貨化に苦慮するなか、人民元をデジタル化しようとしているのが中国です。

中国は2019年末から、広東省深圳、江蘇省蘇州など、複数の都市で実証実験を開始。抽選で一人当たり200元をデジタル人民元で配布しており、これは2021年10月現在約3580円(1元は17.9円)に相当する金額です。また、アプリをリリースすることで実際の使用・管理も容易にするといった試みも行ってきました。

さらに2021年9月末には、中国国内での仮想通貨関連事業を全面的に禁止。これに関与・利用することを違法とし、国民が国外の仮想通貨取引所で取引を行うことも、海外の仮想通貨関連企業が中国の顧客をターゲットにすることもできなくなりました。

この背景にあるのは、不動産大手である中国恒大集団の煽りを受けている金融の安定化、そして前述のデジタル人民元の強化でしょう。デジタル人民元以外の仮想通貨を排除することで、このデジタル通貨の価値だけでなく、普及と利用の促進もねらっているのです。

順位競わず慎重に、アメリカのデジタルドル事情

デジタルドル
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中国の仮想通貨全面禁止の発表を受け、同じく仮想通貨関連事業に積極的に取り組みつつも、「デジタルドル」について検討していたアメリカも、これに続くのではないかとする声が仮想通貨コミュニティに広がりました。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、全面禁止にすることはないと発表しています。

ただ、米ドルをデジタル化する可能性について、検討段階にあることは間違いなく、2021年2月には、デジタルドルを開発するために、セキュリティ面の課題をクリアするだけでなく、法の整備と既存の市場の健全性を守る必要があると説明しています。

先を走る中国をアメリカが警戒していることは確かですが、その順位を競うつもりはなさそうです。それもそのはず。世界の基軸通貨として機能する米ドルがデジタル化されれば、市場に影響が出ないはずがありません。仮に価値が下がるのではなく上がったとしても、それを実際に使う世界中の人々の間で混乱が起こるでしょう。

しかも、米石油パイプライン大手コロニアル社が受けたサイバー攻撃に代表されるように、デジタルを舞台にした戦いが激化する今、そのリスクを増やす可能性には慎重にならざるを得ないのです。

黒田総裁は一定の評価、日本のデジタル円はあり得る?

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では、わが国日本はどうかというと、「デジタル円発行のための検討はしているものの、実際の計画はまだ立っていない」のが現状です。
前述した中央銀行デジタル通貨の定義について解説した日本銀行のサイトにもある通り、各国が検討を行っていることは把握しているものの、現時点では発行の計画はないと明示されています。

しかし、黒田東彦総裁は中央銀行デジタル通貨に対して一定の評価を示しています。
2021年10月半ばのG7財務相・中央銀行総裁会議後の会見では、CBDCがグローバルな資金決済や送金を効率化する方策になり得るとしており、“絶対発行しない”という姿勢はとっていません。
アメリカと同じく、十分な法整備が行われ、市場の安定を脅かさないものであること、そして中央銀行や既存の円の機能を損なわないものであれば、発行の可能性はありそうです。

実証実験や開発のための研究に取り組んでいることは明らかにしており、同年3月に開催したCBDCに関する官民連絡協議会の2回目の会合を10月15日に開催。進捗状況の共有と今後の計画について話し合いを行っています。

10月開催の会合の詳細は明らかにされていませんが、3月の会合の趣旨は「まずは、概念実証のプロセスを通じて、CBDCの基本的な機能や具備すべき特性の技術的な実現可能性について検証を行う。本協議会においては、概念実証の円滑な実施に資するよう、その内容や進捗状況等について民間事業者や政府との情報共有を図るとともに、今後の進め方について協議する」としていたことから、取り組みが進んでいることは確かです。

つまり「すぐではないにせよ、発行の必要性が生じ、そのための土壌さえ整えば発行の可能性はある」と言えるのではないでしょうか。

中央銀行デジタル通貨と仮想通貨の共存はあり得る?

国がつくる中央銀行デジタル通貨と、それ以外の仮想通貨の共存もあり得ると私は考えます。日本国内ではまだ一般的ではありませんが、仮想通貨は人々の金融経済のインフラとしての機能を持ち始めています。投資対象としてその価格変動が注目されがちな仮想通貨ですが、元々は自由な送金手段となるために生まれたことを忘れてはならないでしょう。

仮想通貨、また、その基盤であるブロックチェーン技術を用いた、NFT市場や物流におけるトレーサビリティなどは、さまざまな業界で多種多様な形で活用されるようになりました。絵画・音楽作品などのコンテンツをデジタル化し、取引可能にするNFTも、モノの流通経路を追跡することで透明性を担保するトレーサビリティも、ブロックチェーンによってすでに大きな革新が起こっています。

そういった意味では、「法による規制はできたとしても、仮想通貨を完全に禁止することはすでに難しい」「禁止するよりも上手く使った方がメリットがある」というのが私の認識です。もちろん、通貨や投資対象としての利用を禁じるのは中国と同じような方法をとればできないことはないでしょう。ただ、中国ほど規制を強化すれば、大きな反発を招くことは想像に難くありません。

また、日本には民間企業らで構成される、一般社団法人暗号資産取引業協会(JVCEA)が存在しており、当局と連携をとりながら仮想通貨関連事業を行っていくことで意見が一致しています。よって、日本にデジタル円が流通することになっても、既存の仮想通貨がなくなることはなく、共存はあり得るのではないでしょうか。

可能性模索する仮想通貨、その存在意義はこれからも変わる

仮想通貨
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ビットコインやイーサリアムに代表されるトークン、中央銀行デジタル通貨やNFT、ブロックチェーンを用いた新しいシステム。仮想通貨にはさまざまな形と利用方法があり、その存在意義はこれからも変わることが予想されます。

価格の急騰や取引所からの多額の流出事件の発生など、センセーショナルな部分のみがピックアップされがちな仮想通貨ですが、それはひとつの側面に過ぎません。これからは、仮想通貨をリスクの高い投資対象としてむやみに警戒するのではなく、新時代のテクノロジーとしてさまざまな側面を観察していくことが重要です。

今はまだ現実的ではないデジタル円ですが、今後数年で状況が変化し、当たり前に使う未来がやってくるかもしれません。デジタル円がない今でも、キャッシュレス化は進み、あちこちで電子マネーが使えている日本社会です。セキュリティの問題がクリアされれば、実際にデジタル円が登場したとしても、さほど混乱が起きない状況が形成されつつあるのではないでしょうか。