"奨学金が返せない"学生に救いの手!「奨学金返還支援制度」とは?
監修・ライター
一時期、SNSなどで話題になったキーワードがありました。それは、「#奨学金返せない」というもの。奨学金を借りて大学を卒業した20代、30代の人の「生活が苦しくて奨学金を返せない」という嘆きの声です。そんな中、「奨学金返還支援(返還代理)制度」という制度が、返済に苦しむ若者から注目を浴びています。「奨学金返還支援(変換代理)制度」とはどのような制度なのでしょうか。そして、どのようなメリットがあるのでしょうか。
学生の2人に1人が奨学金を受給、延滞経験は3割弱も
何らかの奨学金を借りて大学や専門学校に通っている学生が一昔前から比べると格段に増えていることはご存じでしょうか。奨学金事業を行う日本学生支援機構の「令和2年度 学生生活調査結果」(2022年3月発表)によると、大学(昼間部)に通う学生の49.6%が何らかの奨学金を借りています。大学(昼間部)の学生の奨学金受給率は1996年に21.2%でしたが、2012年には52.5%を記録。その後、高止まり傾向が続いており、ここ10年ほどは学生の2人に1人が何らかの奨学金を借りているという状況が続いています。
労働者福祉中央協議会の「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査」(2019年3月発表)によると、奨学金の借入総額の平均は324.3万円。借入総額が500万円以上の人は12.4%に上ります。奨学金の平均返済額は毎月1万6880円、奨学金の返済期間の平均は14.7年でした。中には、返済期間が20年を超える人も少なくなく、39歳以下の人の15.0%が、返済期間が20年を超えています。
こうした状況の中、若年層の経済環境の悪化もあって、社会問題化しつつあるのが奨学金を原因とした自己破産者の増加です。2012年度から2016年度で自己破産によって奨学金の債務が免責になった件数は8108件に上ります。若者の労働・貧困問題に取り組むNPO法人「POSSE」などの調査では、奨学金を延滞した経験のある人が全体の28%、自己破産を検討したことのある人は10%になることが分かりました。
若者の中には、新型コロナウイルスの感染拡大で経済的な影響を受けた人が少なくないことから、経済状況のさらなる悪化により奨学金を返済できなくなってしまう人が今後、より増えていくことが懸念されています。
2022年は統計開始以降初めて、出生数が80万人を割ることが確実視されていますが、「結婚も出産も考えられない」という人が増えてしまうのも仕方がないことかもしれません。
返済者にも企業にもメリットがある奨学金返還支援制度
こうした状況を受けて、2021年4月1日から、奨学金返済に関する制度が変更されました。従業員が返済する奨学金を、その従業員を雇う企業が直接、奨学金を貸し付けている日本学生支援機構に送金できるようになったのです。それまでも、企業が従業員の奨学金の返済を支援することはできました。しかし、企業が直接、日本学生支援機構に送金することはできず、企業は従業員を支援するには次のような手続きが必要でした。
1. 企業が従業員の奨学金の返済分を給与に上乗せして支給
2. 従業員本人が日本学生支援機構に送金
しかしこの方法では、奨学金返済分の税務上の取り扱いは「給与」です。そのため、所得税の課税対象となり、従業員にとっては住民税や社会保険料などの負担が増えてしまい、企業にとっては社会保険の算定対象となり、支払額が増えてしまいます。平たく言えば、企業が従業員の奨学金の返済を支援することで、企業も従業員も、余計に支払わなければならないものが増えてしまっていたわけです。
新しい制度になり、企業が直接、日本学生支援機構に送金できるようになったため、従業員は返済分の所得税は非課税となりました。また、企業は奨学金の返済分は、給与として損金算入されるため、法人税の計算の際に利益を圧縮できます。さらに、社会保険料の面では、給与に返済分を上乗せして支給していた場合と比べると、従業員も企業も負担が減ります。
制度が入社の決め手になったケースも
企業にとってのメリットは、税制面だけにとどまりません。何より大きいのは、会社のイメージが上がることでしょう。多くの企業が人手不足に悩んでいます。一方、大学を卒業する多くの若者は、卒業と同時に数百万円の借金を抱えることとなり、将来に大きな不安を感じています。企業が奨学金返済支援制度を導入していることは、そうした若者に大きなアピール材料となるでしょう。
支援額は企業によってまちまちですが、最大3万円を返済が終わるまで支給するという企業もあります。また、従業員が借り入れている奨学金の全額を支援する企業も少なくありません。借金返済の不安がなく、仕事に集中できるのは従業員にとってはもちろん、企業にとっても大きなメリットです。
実際に、SNSなどでは「奨学金支援制度が入社の決め手になった」という声は少なくありません。とはいえ、奨学金支援制度はまだ多くの企業が導入しているものではありません。導入している企業の多くは地方の中小企業です。今後より多くの企業がこの制度を導入することで、「若者の奨学金返済負担」という問題の社会全体での解決を期待したいところです。