最低賃金、過去最大66円アップで生活は楽になる?試算してみた!

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2025年度、日本の最低賃金は歴史的な節目を迎えます。厚生労働省の中央最低賃金審議会は、全国加重平均で66円という過去最大の引き上げを決定し、平均時給は1121円に到達。初めて全都道府県で時給1000円を超える改定となりました。この賃上げは、私たちの生活にどのような影響を与えるのでしょうか。
2025年度の最低賃金、過去最大の引き上げへ
今回の過去最大の引き上げは、単一の理由ではなく、複数の社会経済的な要因が複雑に絡み合った結果と言えるでしょう。
物価上昇と実質賃金の低下への対応
近年、食料品やエネルギー価格の高騰が続き、消費者物価指数は高止まりしています。しかし、賃金の伸びは物価上昇に追いつかず、実質賃金は減少傾向。特に最低賃金で働く非正規労働者や若年層の生活は厳しさを増しており、この状況を改善するため賃上げが強く求められていました。
政府の強い意志
政府は「2020年代に全国平均時給1,500円」を目標に掲げています。賃上げを通じて個人消費を拡大し、経済の好循環を実現することが狙いです。今回の引き上げは、デフレ脱却と成長戦略の一環と言えます。
労働力不足と地域間格差の是正
少子高齢化による労働力不足が深刻化する中、特に中小企業やサービス業では人材確保が課題です。そのため賃金引き上げは、企業競争力を維持するための必要条件と言えます。また、都市部と地方の賃金格差が人口流出の一因となっていることから、そうした格差是正も重要な政策目標となっています。
2025年度、最低賃金は都道府県でどのくらい違う?

2025年度の改定により、全都道府県で最低賃金が1000円を超えました。しかし、地域間の格差は依然として存在します。
今回の改定の特徴:格差是正へのチャレンジ
今回の改定で注目すべきは、経済状況に応じて分けられたランクごとの引き上げ額です。多くの都道府県が目安通り「+63円」となる中、青森、岩手、秋田など、賃金水準が相対的に低いCランクの13県では「+64円」と、1円多く引き上げる目安が示されました。その結果、物価高や地域間格差の是正、人材流出への懸念を背景に、39の道府県で目安を超える引き上げが決定しました。なかでも熊本県は82円と最も大きく、次いで大分県が81円、秋田県が80円の引き上げとなりました。
最低賃金額はどれくらい違う?
大幅な上昇という結果になりましたが、それでも最高額の東京都(1226円)と賃金額が低い高知県・宮崎県・沖縄県(1023円)では約20%の開きが残っています。依然として、東京や神奈川、大阪などの大都市圏が高く、東北や九州の一部が低い傾向は、産業構造や経済規模の違いを反映しています。
最低賃金で生活は可能?「時給1500円でも足りない」現実
最低賃金はあくまで法律で定められた「最低限」のラインです。では、「人間らしい生活」を送るためには、一体いくら必要なのでしょうか。
全労連の試算が示す「必要な時給」
全国労働組合総連合(全労連)は、健康で文化的な最低限度の生活を送るために必要な費用を品目ごとに積み上げて算出する「マーケット・バスケット方式」を用いて「最低生計費」を試算しています。
その調査によれば、25歳の単身者がごく普通の暮らしをするためには、全国どこに住んでいても月額約24万円(時給換算で1500円以上)が必要という結果が出ています。
さらに、近年の物価高騰を反映した最新の試算では、必要な時給は1700円~1900円にまで上昇しているとの指摘もあります。
参考:全労連調査結果一覧
よくある誤解:「地方は生活費が安い」は本当か?
この調査で特徴的なのは、最低生計費に都市部と地方でほとんど差がないという点です。例えば、東京と秋田で試算を比較すると、東京は家賃が高い一方で公共交通機関が発達しているため交通費は安く済みます。
対照的に、地方では家賃は安いものの、生活に自動車が必須であるため、その維持費が大きな負担となります。 なお生活必需品などの価格に大差はないため、結果として総額としての生活費はほぼ同水準になります。
地方は「物価が安いから賃金が低くても大丈夫」と思われがちですが、地方で暮らす人々にとって賃金格差が生活の厳しさに直結している現実を浮き彫りにしています。
【シミュレーション】最低賃金で一人暮らしするとどうなる?

では、2025年度の最低賃金で一人暮らしをした場合、実際の収支はどうなるのでしょうか。
ここでは改定後の東京都の最低賃金1226円と秋田県の1031円を例に、首都圏と地方での収入や支出の違いをシミュレーションしてみます。
なお生活費は総務省の2024年度の家計費調査の単身者、地方別の数字を使用しています。
北海道・東北地方と関東地方でかかる生活費でシミュレーション
[シミュレーションの前提条件]
労働時間:月160時間(週40時間フルタイム勤務)
収入(手取り):額面収入から税金・社会保険料を約20%差し引いた金額で想定
東京:時給1226円 × 160時間 = 19万6160円 → 手取り約15.7万円
秋田:時給1031円 × 160時間 = 16万4960円 → 手取り約13.2万円
生活条件:単身者が賃貸住宅で一人暮らしをすることを想定

調査の結果によると、住居費を含めた1か月の生活費は、北海道・東北地方で160,618円、関東地方で180,411円という水準でした。なお、これらの金額は全年齢層を対象とした平均値であり、加えて、働き方の違いまでは反映されていない点に注意が必要です。
続いて住居費を除いた生活費は、北海道・東北地方で141,932円、関東地方では152,719円となりました。最低賃金で得られる収入とほぼ同程度か、下回るケースも見られ、家賃を支払えば赤字に転じる可能性が高いことが分かります。
ちなみに総務省の家計調査における「住居費」には、賃貸住宅の家賃、土地の賃借料、火災保険料などが含まれています。なお注意が必要な点として、調査対象の母数が少ないため、特定の回答が平均値を左右する可能性があることです 。
一方、民間の大手不動産サイトなどで実際の家賃相場を確認すると、単身者向けのアパートやマンションは関東地方では安くても月5~6万円程度から、秋田県のような地方では3万円台からが一般的で す。
こうした状況から考えると、最低賃金で単身生活を成り立たせるには、長時間の勤務や仕事の掛け持ちなど、相当な工夫や支出のコントロールが欠かせないと言えるでしょう。また収入面の不安から一人暮らしが難しく、親元で同居しているケースも多いのではないでしょうか。
今回は最低賃金が過去最大の引き上げとなりましたが、収入と支出がギリギリで釣り合う、あるいは赤字になるケースも少なくありません。貯金に回せる余裕はほとんどなく、冠婚葬祭など急な出費に対応するのも難しい状況です。さらに、病気や失業といった予期せぬ出来事への備えも、かなり厳しいのが実情と言えるでしょう。
この調査から見えてくるのは、最低賃金での暮らしが、いまだに「生きるのが精一杯」という厳しい現実に直面しているということです。
最低賃金でも未来は作れるか?FPが教える6つの資産形成術
最低賃金での貯蓄や投資は不可能なのでしょうか。結論から言えば、簡単ではありませんが、少額からでも未来への資産を築くことは可能です。
1)支出の「見える化」と徹底的な見直し
資産形成の基本は、自身の支出を正確に把握することです。まずは1カ月分の支出を書き出したり、マネーフォワード、Zaim、Moneytreeなどの家計簿アプリを活用するなどして「お金の流れ」を可視化し、無駄を洗い出しましょう。
2)固定費の削減
家計へのインパクトが最も大きいのが固定費です。特に通信費は、大手キャリアから格安SIMに乗り換えるだけで月数千円の節約が可能です。また、家賃は収入の25~30%以内に抑えるのが理想とされます。シェアハウスやルームシェアも選択肢に入れ、住居費を圧縮しましょう。
3)変動費の節約
食費や日用品、交際費などは、工夫次第で減らせる支出です。しかし切り詰めすぎるとストレスとなってリバウンドの可能性もあるため、「無理して減らす」よりも「選ぶ」意識にすると良いでしょう。「外食は特別な日のご褒美に」「毎日のコンビニ習慣をやめて、週1回だけ好きなものを買う」「本当に必要なサブスクだけにしてあとは解約する」など、メリハリをつけた使い方にして「本当に好きな、必要なものにはお金を残してそれ以外を減らす」ようにすれば、ポジティブに取り組めます。
4)「緊急予備資金」を確保する
必ず確保すべきなのが生活費3~6カ月分の「緊急予備資金」です。収入に余裕がないからこそ、病気やケガ、急な失業といった不測の事態で生活が破綻しないためのセーフティーネットが不可欠です。毎月数千円でも構わないので、給与天引きの財形貯蓄や自動積立定期預金などを利用して、強制的に貯める仕組みを作りましょう。
5)少額から始める「NISA」での資産運用
新NISAを活用し、月1000円からインデックスファンドに投資してみましょう。全世界の株式に分散投資するインデックスファンドなどを毎月コツコツ積み立てることで、複利の効果を活かし、資産を育てることが可能です。例えば、毎月1万円を年利4%で20年間積み立てれば、元本240万円が360万円程度に増えるという試算もあります。ただしリスクの取り方により元本割れの可能性はあり、「必ず増えるものではない」ことを認識しておく必要があります。
6)「自分への投資」で収入を増やす
「節約して余ったお金を貯める・増やす」だけでは限界があります。長期的に家計を安定させるには、自分に投資して収入を増やすことが欠かせません。これは最もリターンの大きい投資の一つです。国家資格や技能資格、ITスキル・デジタルスキル、語学力などのスキル習得や資格取得で自分の専門性を高め、時給アップや正社員登用を目指しましょう。クラウドソーシングでの副業も、月1~2万円の追加収入が期待できます。
まとめ~賃上げは一歩前進、でも現実は変わらず~
2025年度の最低賃金大幅引き上げは、働く人にとって間違いなく良いニュースです。平均66円の引き上げは過去最大で、全都道府県で1000円を超えたのも初めてのことです。
ただ、実際の生活を考えてみると、まだまだ厳しいのが現実です。家賃、食費、光熱費…どれを取っても値上がりが続いている中で、時給が60円ちょっと上がったところで、劇的に暮らしが楽になるわけではありません。
それでも家計を見直してみる、少額でも投資を始めてみる、新しいスキルを身につけてみる。こうした小さなことでも、長い目で見れば意外と大きな変化に繋がります。
賃金が上がることを期待しつつも、自分でできることは自分でやってみるということが、今、求められている姿勢なのかもしれません。
※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。