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雇用保険料も値上げで手取りが減ってる!負担はどのくらい? (2ページ目)

そなえる 中村 賢司

なぜ雇用保険料が上がるの?

雇用保険料
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雇用保険料は労働者と事業主が負担していますが、2022年度に2回の値上げが予定されています。値上げの原因は大きく2つです。

1つ目は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために支給された雇用調整助成金の特例の影響です。雇用調整助成金は労働者に対して一時的に休業、教育訓練または出向を行い、労働者の雇用の維持を図った場合に休業手当や賃金等の一部を助成する制度です。

新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するため企業活動が制限された2020年の春以降、特例として支給要件を緩和することで多くの企業が雇用を維持するために積極的に制度を活用しました。厚生労働省の2021年12月の発表によると2020年3月以降に支給された雇用調整助成金は5兆円を超えています。この財源を確保するため、雇用保険料を値上げすることになりました。

雇用保険料増額にはもうひとつ理由があります。それは積立金の枯渇です。雇用保険制度における積立金とは、経済全体が不況に陥り、失業者の増加などにより失業給付金の給付が増え、財源が圧迫された場合に備えるための資金です。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大の影響で事業の縮小、廃業などをせざるを得ないケースも多く、失業された人も多かったと言えます。独立行政法人労働政策研究・研修機構の発表によれば2019年の失業給付者数・申請者数を100とすると2020年・2021年は2019年を大幅に超えていたことが分かります。

 
出典:労働政策研究・研修機構

厚生労働省が発表した見込みによると、2021年度末で1兆3000億円もあった給付金のための積立金残高が、2022年度末には500億円に減少してしまうというのです。何かあったときのために、この積立金を補填することも雇用保険料の値上げの要因の一つです。

このように今回の雇用保険料の値上がりは、新型コロナウイルス感染症の影響を色濃く反映していると言えるでしょう。

雇用保険料はいくら上がるの?手取りが減るのはいつから?

雇用保険料は2022年度の4月と10月に値上げされます。厚生労働省の発表資料で見ていきましょう。

2022年(令和4年)4月から、事業主負担の保険料率が変更

4月から事業主が負担する雇用保険二事業の保険料が先行して値上がりします。このタイミングでは労働者が負担する保険料の変更はありません。

2022年(令和4年)10月から、労働者負担・事業主負担の保険料率が変更

10月からは、労働者が負担する失業等給付や育児休業給付にかかる保険料が値上がりします。また事業主が負担する失業等給付・育児休業給付の保険料率もアップします。

 
出典:厚生労働省

10月から労働者が負担する保険料率は賃金の「1000分の3」から「1000分の5」に引き上げられます。

なお雇用保険における賃金は、税金その他社会保険料などを控除する前の総賃金額を指します。具体的には下記のように分かれています。

対象になる賃金

通勤手当(非課税分を含む)、定期券・回数券(通勤のための現物支給分)
超過勤務手当・深夜手当(いわゆる残業手当など)、宿直手当・日直手当
家族手当・子供手当・扶養手当
技能手当・教育手当・特殊作業手当
住宅手当・地域手当
皆勤手当・精勤手当などの奨励手当
休業手当(「労働基準法」第26条。事業主の都合で休業した場合に支給)
など

対象にならない賃金

役員報酬
結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金、年功慰労金、勤続褒賞金、退職金
出張旅費・宿泊費
休業補償費(「労働基準法」第76条。労働者が業務災害により休業した場合に支給)
傷病手当金(「健康保険法」第99条。労働者が業務外の傷病により休業した場合に支給)
解雇予告手当(「労働基準法」第20条。30日前の解雇の予告なしに労働者を解雇する場合に支給する手当)
など

深夜手当や超過勤務手当(残業代)などは月によって金額が変わることが多いため、雇用保険料は毎月変動していることが多いようです。

さて10月から労働者負担分の雇用保険料がアップすると、どれくらい負担が増えるのでしょうか?月収25万円の労働者を例に計算してみましょう。

2022年9月まで
25万円×1000分の3=750円

2022年10月から
25万円×1000分の5=1250円

雇用保険料の保険料率が上がることで1カ月当たり500円の負担が増えています。
単月でみるとそれほど大きくは見えませんが年間に換算すると6000円のアップです。年収300万円、独身の人が負担する所得税・住民税を合計するとおおよそ17万円であることを考えると、この6000円の負担増はそれなりに大きいものと言えるでしょう。1000分の2、0.2%というわずかなアップでも影響がありますね。

新たに起業した場合は失業手当の受給期間が延長になる可能性があるかも?

Startup
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まだ決定はしていませんが、厚生労働省では離職して起業をした場合、失業手当を受給できる期間を延長する方向で調整が進められています。会社をやめた人が再就職せずに新たに起業した場合、雇用保険の失業手当の受給期間を現在の原則1年から最大4年間に延長するというものです。

これは離職後に起業やフリーランスとして仕事を始めたあと、残念ながら廃業となり再就活をするような場合、1年間の受給期間を過ぎてしまったため失業手当を受け取ることができない、といったケースが増えたことに対応することを目的にしています。

失業手当の受給の期間は前職での雇用保険の加入期間や年齢などに応じて90~330日になっており、この受給の資格を現在は1年間持ち続けることができます。起業した場合はこの受給できる資格を最大4年間持ち続けられ、この4年間のうちで起業がうまく行かず再び失業した場合に失業手当を受給できるというものです。

そのため失業手当をもらえる日数そのものが増えるということではありません。この点は誤解のないようにしてください。また正式にいつから導入されるかはまだ決まっていません。

雇用保険法改正、他に変わることは?

2022年4月から65才以上の兼業・副業者向けに雇用保険特例加入の制度が始まります。少子高齢化の影響もあり、65才以降も働き続けている人が増加しています。ただし非正規雇用である割合が高く、2つ以上の事業所で兼業されているケースも目立ちます。

この場合、いずれの事業所でも1週間の労働時間が20時間未満であれば雇用保険の対象から外れてしまいます。そのため2022年4月から改正が行われ、一定の条件を満たせば雇用保険の二重加入が認められるようになりました。

まとめ

これまでも離職時の経済的サポートとして機能してきた雇用保険ですが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大という思いがけない事態が発生し、その役割が改めて再確認されました。

すべての方がこの制度の恩恵を受けたというところまではいきませんが、雇用保険の雇用調整助成金の特例があって良かったという方が多いことも事実です。また今回、65才以上の兼業・副業の方の二重加入など時代に合わせた改正内容も盛り込まれています。

加えて時期は決まっていませんが、離職に合わせて起業やフリーランスという働き方を選んだ際のセーフティーネットの一つとして受給可能な期間を4年間に延長するという動きも出てきています。

これらのことを考えると、今後に備えて資金を積み上げるために保険料をアップするというのも理解できる内容であるように思います。ただし、たかが0.2%と言っても、労働者負担分が今よりも増えることには変わりありません。

10月以降に自分の雇用保険料が金額にしてどれぐらいアップするのかは注意しておきましょう。

雇用保険についてのQ&A

Q.失業給付の対象になる労働者の適用範囲を教えてください。

A.失業給付は雇用保険の一部です。雇用保険の適応事業所で働く労働者は原則加入ですが、1週間の所定労働時間が20時間未満である場合や、継続して31日以上の雇用が見込まれない場合は対象外です。

Q.事業内容で保険料率が異なるのでしょうか?

A.事業の種類により異なります。農林水産・清酒製造の事業、建設の事業、一般の事業の3つに分類されています。一般の事業と比較して他の二つの事業は保険料率が高くなっています。これは離職者が一般の事業よりも多いことなどが要因と言われています。
 

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